窓も無く薄暗い室内、その部屋の隅で俺は横倒しにした本棚の上にミニミ機関銃を構えて息を殺していた。
この部屋の入り口は俺の位置と部屋の中心を挟んだ反対に一つ、入り口の先にはこの部屋よりも少々大き目の部屋がある、たぶん大きめの部屋はオフィスとして、俺のいるこの部屋は倉庫として使う予定だったのだろう。
・・・隣の部屋で軽い物音と靴音が響いている。
もうすぐ、もうすぐ『奴等』が入ってくる。
『奴等』は本来ならばもう既にここは弾の雨が降っているんだろうが、慎重に慎重を重ねているのか、まだ入ってこない。
顔につけた暗視ゴーグルが、俺の両眼にグリーンに染め上げた室内を事細かく映し出している。
視界の幅がさほど広くないので視線を動かすには少々ぎこちなくなるが、それでも事は足りる。
俺が今見るべきなのは部屋の入り口、一点のみ。
この待ち伏せ戦法はすでに何度と無く実証され、その度にこの部屋に踏み込んだ『別の奴等』を真っ赤に染め上げてきた。
さぁ、こい・・・・おまえらも真っ赤に染め上げてやる。
コツリ
普通に聞けばかすかであると思うが、俺の耳にはとても大きな靴音がした。
数瞬の後、ゆっくりと入り口から89式小銃――旧陸上自衛隊制式のアサルトライフルの銃口が顔を見せた。
それに続いて、漆黒のタクティカルベスト、同じく黒の防弾ヘルメット、ガスマスクと完全武装した『奴等』がゆっくりと部屋の中へ入ってくる。
ひとり、ひとり、またひとり。
同一装備の計9名が油断無くアサルトライフルを構えながら部屋の中に入ってきた。
いいぞ、そのままもう少しそっちへ動け。
この部屋の中にはいくつかのトラップを仕掛けてある。
そのトラップに引っかかった瞬間が、ガンファイトショウの始まりだ。
一番最初に入ってきた奴が、もっとも引っかかって欲しいトラップのワイヤーに歩み寄っていった。
気づいている様子はない、トラップに寄っていったのではなく歩いた方にたまたまトラップがあった、という事だろう。
それこそ、俺にとって好都合だ。
およそ、あと三歩。
あと二歩。
一歩。
止まった、気づかれたか!?
一瞬トリガーにかかる指に力がこもったが、いやまだだ、まだ気づかれたとは限らない。
「なぁ、本当にここにいると思うか?」
「いるよ。だってそう言ってたんだから」
「そうだけどさぁ、たった一人で入ってったぞ、あの人?幾らなんでも一人でなんて―――」
この状況下において、内緒話とは良い度胸をしてる。
だが、その度胸の良さが命取りだ。
トラップに一番近い奴の足が動く。
そして、ワイヤーをくっと弾いた。
ガフォンッ
「きゃっ!!」
ワイヤーは近くの、入ってきた者の丁度死角になる、棚の一番下に入っているショットガンに連動しており、そのショットガンから発射された大量の『特殊な散弾』が弾いた奴とその近くにいたもう一人を餌食にした。
それと同時に、俺は両目を閉じながら右足を思いっきり弾いた。
パッ
ショットガンの音とは対比して小さな音、何という事はないただ単に部屋の明かりが灯っただけだ。
しかしそれでも、今まで闇に慣れていた者にとっては光輝のごときだろう。
俺の足に巻きついていたワイヤーが部屋の明かりを点すスイッチに噛ませてあった絶縁体を引き取ったからだ。
明かりが灯ったと同時に、腕を動かしてマシンガンを構えたまま二の腕で暗視ゴーグルを上向きなるように弾く。
視界が確保できたと同時に真っ先に入り口に一番近い、ガスマスクの眼の部分を覆っている奴に銃口を向けた。
タタタタタタタタタッ
5.56o弾特有の銃声が部屋の中に木霊する。
命中を確認するまでも無い、きっと当たってる。
そして銃口を、部屋をぐっと嘗め回すように振った。
壁にいくつもの着弾の跡を残しながら、弾をばら撒く。
そしてその場にいた俺を覗く全員は一発も弾丸を発射する事無く、文字通り『真っ赤に染まった』。
全ては終わった、侵入者は全員『死亡』した。
・・・・・落第点だな、こりゃ。
「おいこら、おまえらこりゃぁどういう事だ?」
「イタタタ・・・きゃっ」
一番最初にショットガントラップを喰らって『インクで真っ赤に染まった』脇腹をさすっていた奴に詰め寄り、ガスマスクを強引に剥ぎ取った。
「えっと、どういうことって何でしょう?」
ガスマスクの下から出てきたのは、俺と同年くらいの割と可愛い目の少女だった。
年齢はビンゴで俺とタメ、名前は伊崎・・・・ケイだったっけ。
こいつらがこっちに来た日に徹夜で名簿と睨めっこして名前と顔を憶えたもんだから、いまいち自信が無ぇな。
まぁそんなこたぁどうだっていいんだ。
障害探索
「アフォか、おまえわ。隣の部屋のクリアリングが終わった時点でこの部屋に俺が潜んでるって事ぐらいわかってるだろう。それなのに部屋に入っても制圧射の一発も撃たないわトラップに引っかかるわ私語はするわ。やる気があるのはわかる、だがもうちょっと頭使えや」
「は、はい、すみません・・・・」
しゅんとする。
あぁぁぁ、どうしてそこで落ち込むんだよ。
「謝るな、お前だけの責任じゃないんだからさ。それに、部屋の中での展開の呼吸は結構合ってたから、そこに関しては及第点だ。昨日今日創ったばっかの部隊にしてはよくやってるよ」
「え、あ、そうなんですか?」
「あぁ、まぁ次の課題としてはもう少し頭の回転を良くする事だな」
「はぁ・・・・」
「伊崎、向こうの部屋でいろいろ説明する事があるからついてこい。残りはこの部屋の掃除だ、ぞーきんがそのショットガンの奥に隠れてるからそれ使ってしっかり拭いて置けよ。松永、そのあいだ指揮を執れ」
「了解しました」
「それじゃ、いくぞ伊崎」
「あ、はい」
伊崎を先導するように、俺は部屋からゆっくりと出た。
よかった、伊崎で当たってたみたいだ。
「さてと・・・」
さっきの部屋の隣、ごろごろ転がっている廃品を退けて部屋の一番奥に予め確保しておいた『無事な』椅子に腰掛け、同じく確保しておいた『無事な』机の上にさっき剥ぎ取ったガスマスクを置いた。
伊崎もそれに習い、近くにあった『無事な』椅子を見つけて机を挟んだ俺と反対の辺りに腰掛ける。
「ま、お疲れサンということでくれてやる」
引き出しからやはり予め仕込んでおいた缶コーヒーを取り出して伊崎に放り投げた。
「わっとっと。ありがとうございます」
まるで両手でキャッチボールでもするかのごとく缶を二、三度浮かせたがなんとかキャッチ。
「じゃぁ始めるとするか・・・・の前に、ヘルメット脱げや。机の上において良いからさ」
「え、あ、はい」
慌てた様子でヘルメットを脱いで机の上にのせた。
それと同時に伊崎のセミロングの猫っ毛な黒髪が流れる。
それが気に入らないのか、伊崎が自分の髪を手ぐしで軽くではあるが整え始めた。
いっぱしにオンナノコしてんだなぁ。
微笑ましさから思わず笑みがこぼれた。
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもないさ。よし、まずは今回のこの演習の主旨についてだが・・・」
「はい」
「なんの事ぁない、ただ単に『いままでの常識は通用しない』ってことだ」
「今までの常識・・・・戦自で習ったことの事ですか?」
「そうだ。例えば・・・・そうだな、ここにAという敵の攻撃陣地が森林の中にあったとしよう」
そう言って、俺も伊崎の来ているものと同じタクティカルベストのポーチに入っていたマガジンの中からライフル弾を一発取り出して机の上に置いた。
「さて、この陣地を攻撃するのに伊崎はどこから攻撃する?伊崎のチームは発見されておらず、陣地の向きは伊崎の方向に向いているとしてだ」
「ここです」
間髪入れず、伊崎は俺に近い辺り――つまり攻撃陣地の裏手を示した。
「うん、野戦のセオリーならそうだろうな。裏手からの強襲は多大な効果を与える事が出来る。森林戦なら森に紛れて移動するのも可能だしな。じゃぁ・・・・」
右手でぐるっと部屋を示してみせた。
「この部屋なら、どうする?」
「え?」
伊崎が驚いたように辺りを見回した。
当たり前だ、『普通に考えれば』この部屋は不意打ちをかけようにも出入り口が一つしかないんだから出来るはずが無い。
「降参か?」
「・・・・はい、すみません」
「謝んなくもいいっつぅの。まぁいい、じゃぁ回答だ。案外簡単だぞ、そこにあるのは何だ?」
右手で横を真っ直ぐ示した。
「・・・・廃材ですか?」
「違ぁう、もっと先」
「・・・・・・・壁ですか?」
「そう、壁だ」
もし伊崎の頭の中を視覚化したら、クエッションマークが五つも六つも浮いてるだろうなぁ。
「C4やTNT爆薬でここに風穴を開けたら、どうだ?」
「あっ」
ようやくクエッションマークが消えた。
「そうすれば部屋の中の敵は意表を突かれるだろう。難易度は上がるが突入には最適だ。それだけじゃない、正規の入り口ってのは当たり前だが人が出入りする所だ。敵味方問わず、な。どういう事かわかるか?」
「トラップの設置や待ち伏せをされやすい、ですか?」
「そうだ。反撃しようにも入り口のみを狙い撃たれる訳だから突入する訳にもいかないし、その間にもし手榴弾なんて投げ込まれたら最悪全滅なんて状況にも陥る。待ち伏せが無いにも有刺鉄線や金網鉄条網を配置されれば進入を防がれるし、トラップが仕掛けられてたとしたら戦力をそがれるだけじゃなくそれが警報装置がわりになってこちら側からの攻撃を探知される。その二つを組み合わされたらもう最悪だ」
「あ、でも壁に穴をあけた時点で敵に気づかれませんか?」
「そこでさっきの問題点その2だ。屋内への突入は迅速に行わなくてはいけない、これは突入のセオリーだ。もちろん状況によっては静かに気づかれないように突入する場合もあるがな。基本的には、反撃する間もなく室内を制圧、守り手に有利で攻め手に不利な都市戦じゃぁ反撃させないは絶対条件だ。おまえらは警戒してた所為でおっかなびっくり入ってきただろ」
「・・・ものすっごく無謀でしたね」
「それがわかればいいんだよ。それを身をもってわからせるためにやったようなもんだからな。その他にも――――」
「中隊長」
急に凛とした声が俺の声を遮った。
思わず声のした方向――部屋の入り口付近の方に視線を向けた。
「おぅ、桐生か」
「あ、ユウちゃん」
うわ、ちゃん付けは合わねぇぞ。
部屋の中に悠然と入ってきた女丈夫に向けて伊崎が発した言葉におもわず頭の中で ツッコミを入れた。
桐生ユウコ、ベータ小隊長兼第三分隊長、コールサインはスペリオルワン。
もはやこいつに関しては引っかかることなく言える、というか思い出せない奴の方がおかしい。
なぜかというと、めちゃめちゃ目立つからだ。
美人の部類に入る顔の造作や背中ほどにまである長い髪、ぴんと伸びた背筋と身長の所為で俺よりもあたま一個分はでかい。
性格も、無口で無愛想・・・よりも一歩マシなぐらいで容姿を追従している。
巴御前チックなハンサムガールなのだ、言ってみれば。
これでやはり年齢がタメなんだからもはやサギに近い。
まぁ、それはそうと。
「怪我の方は大丈夫か、桐生?」
「はい、軽い打ち身だそうです」
「そうか。悪かったな、手加減したつもりだったんだが」
「いえ、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
そう言って近くから発掘してきた椅子に座った桐生に引き出しの缶コーヒーを放る。
桐生がありがとうございます、といってプルタップを開けて口をつけた。
それを見計らったかのようなタイミングで伊崎が口を開いた。
「あのぅ、怪我っていったいどうしたんでしょうか?」
あぁ、伊崎は桐生より後の順番だったからまだ知らないのか。
演習内容をバラされない為に終わった分隊は終わってない奴がいる部屋とは別の部屋に移動するように指示したからな。
「いやな、こいつの分隊も丁度よくショットガントラップに引っかかってくれたんだが・・・なぁぜか桐生一人だけ喰らってなくってな。こっちも持ってた武器が残りの連中に使って弾切れ起こしちまってたショットガンだけだったんで、そのまま白兵戦に持ち込んだんだよ。その時にたまたま、な」
あの時はマジでびっくらこいたよ。
ショットガントラップが働いて、喰らってない連中を追撃ってのに、あいつ一人だけがなぜか物陰に避難してて、しかも模擬戦用――つまりは刃を潰して塗料を塗り込んだ――銃剣をアサルトライフルに着剣までしてたんだもんなぁ。
こちとら弾無しになってたからすぐさま飛びかかってアサルトライフルふっ飛ばしたはいいけど、まさか次の瞬間に腰の模擬戦用ファイティングナイフを抜くとは・・・・。
俺もなんとかナイフを抜いて応戦して――といっても、ほとんど掴み合いの取っ組み合いで地面転げまわってたけど――最後の最後でなんとか俺の左掌底が桐生の脇腹にヒットさせて、その隙に模擬ナイフを首筋にすべらせられたから勝った、というわけだ。
銃
剣
「でもホント、あそこでまさかバイオネットつけてるとは思わなかったなぁ。いつのまにつけてたんだ、アレ?」
「部屋に突入する前です。狭い場所だったので、必要になると思いまして」
さも当然という風に桐生が言った。
そんな口調でもイヤミに聞こえないから不思議だ。
「なるほどなぁ、通りで。俺的には銃剣は一応渡しておいたものの付けるやつはいないだろうと思ってたから、あんときゃかなりびびったなぁ」
いきなりかまされる銃剣突撃は・・・・はっきり言おう、俺でも怖い。
「それでいったいどっちが勝ったんですか?」
「中隊長が勝ったよ」
伊崎の疑問に答えたのは桐生だった。
「えっ!?ユウちゃんに勝ったの?隊長が!?」
唖然と言う風に伊崎が俺を凝視する。
「・・・なんだよ、そんなに俺って貧弱に見えるのか?」
「それもあるんですけど・・・」
あんのか、おい・・・。
「い、いえ、ユウちゃんが誰かに負けるのって初めて聞いたから・・・」
思わず渋面になった俺の顔を見て慌てて取り繕うように言われた。
「ほぅ、そうなのか桐生?」
「はい。少年兵同士の模擬訓練では無敗でした」
「どーりで手強かった訳だ」
この体格でこれだけの腕前もってりゃそりゃ負けんわなぁ。
ん、まてよ・・・・。
「よう、桐生。もしかして、手加減とか・・・・してたか?」
「いえっ、私はあなたをそんな侮辱するような事はしていませんっ」
「お、おぅ、そうか」
強い語気で言われたのでさすがの俺も一瞬鼻白いちまった。
にしても手加減は相手への侮辱だ、か。
兵隊というよりはサムライだな。
こういう所が桐生の良い所でもあり悪い所でもある。
ま、好感が持てるからいいけどね。
「まぁそれはさておき、桐生がここに来たのは報告でか?」
「はい。それと、私も講義に参加させてもらおうと思いまして」
講義ってほどでもないんだがな。
「オーケー、いいぜ。勉強熱心なのはいい事だ」
「ありがとうございます」
さてと・・・・、どこまで話したっけか。
「そうそう、思い出した。アサルトライフルのみでの突入もいただけなかったな」
「なにか問題でもあるんですか?火力は多い方がいいと思うんですけど」
伊崎の言う事ももっともだ。
「だけどな、アサルトライフルは室内で使うにはデカすぎるんだよ。突発的に敵が出現した場合に壁や調度品に引っかかってすぐに反撃できなかったら、ヤバイだろ?」
「あっ、たしかにそうですね」
「その場合には何を用いたら良いのでしょうか?」
「そうだなぁ、ハンドガン、サブマシンガン、短銃身のアサルトライフル。とにかく短くて軽くて取り回しやすい物だな」
「刃物類はどうでしょうか?」
「無音で敵を殺傷できるって所では良いけど、敵に撃たれる可能性が高いのと接近する時に―――」
ドゥンッ
「うわぁっ!!?」
隣の部屋から悲鳴と爆音が響いてきた。
・・・・おそらく俺が仕掛けたクレイモアトラップに引っかかったんだろうな。
だから注意して掃除しろって言ったんだよ。
「このようにトラップに引っかかる可能性が高いからな、実用的かって言われれば疑問だ」
「・・・・なるほど」
「・・・・大丈夫かなぁ」
「無視だ無視、自業自得。んで一応、おまえらの持ってるザウエルにもペイント弾が込められてるよな?俺はもしかしたら気づくかもって意味で込めさせたんだが・・・・だぁれも気づかなかったな」
俺だってワザワザ弱装ペイント弾にこめ直したってのに・・・・。
「あれってそういう意味でだったんですか」
「まぁな。ま〜、これから何度となくちゃんとした場所で講義してやるからそんときに一括して覚えておけ」
「はい」
「了解しました」
「最後に説明した事をまとめておさらいしてやる。第一に、屋内と突入にはスピードが命だ、迅速に行動し敵を制圧する事」
「都市戦は、攻撃側に不利で防御側に有利・・・でしたっけ」
「そうだ。そんで第二にかならず相手の気持ちになって考え、相手の裏をかく事。突入時に待ち伏せやトラップが無さそうな場所、多層構造物なら二階や壁に穴をあける等、工夫を凝らす事」
「防御側からの反撃を極力受けないようにする為、でしょうか?」
「わかってるじゃないか、聞いてなかったのに。そう、なんにしてもそうだが一番恐いのはトラップと待ち伏せと重火器による掃射だからな。敵からの攻撃は極力受けないようにする事、こんなところかな」
後は・・・・なんかあったかな。
あっと、そういえば。
「そういえばおまえ等、分隊識別用のインシグニア、考えてきた?」
インシグニアっていうのは部隊章――各部隊を識別する為のワッペンで、いわば看板のような物だ。
吼え猛る 鷲
有名な物として、『スクリーミング・イーグル』――第二次大戦時にも活躍したアメリカ陸軍第101空挺師団の鷲をかたどったインシグニアなんかが有名だな。
「いえ、まだです。早いの方が良いですか?」
「う〜ん、早い事にこした事はないがモノがモノだしゆっくり考えてくれ」
「了解で〜す。そういえば中隊のインシグニアってもう出来てるって聞いたんですけど、本当ですか?」
耳ざといなぁ、どっから仕入れてきたんだ、その情報?
「誰だ、それ洩らしたの?」
「秋月さん」
あの人は・・・。
「ねぇ隊長、どんななんですか?見せてくださいよぉ」
「わかったわかった、これだよ。ほれ」
左肩を二人に向けてみせる。
丸い円の真ん中に、六本の片刃の直刀が中央で交差しながら突き刺さっているという絵柄で。その上部には絵を丸く囲むように『NARV SPECAL OPERATIONS TROOP』と書かれ、そして下段には『Band of brotherS』と書かれている,。
「あのぅ、上のはわかるんですけど、下のはなんて書いてあるんですか?」
「なんだ、あんな簡単なスペル読めんのか?」
「すいません、ちょっと・・・」
「最初のが『ネルフ特殊作戦中隊』、後のが『兄弟達の一団』だ、憶えておけよ?公文書にこの名前が乗るんだからな」
「・・・なんか凄い名前ですね」
「シェイクスピアから抜粋した。一応、特殊部隊ってことで通り名が必要になると思ってな。これでもめちゃめちゃ頭ひねったんだぞ」
「ははぁ、ずいぶんマニアックなところから出しましたねぇ」
「否定はしないけどな」
「それで、そのインシグニアのワッペンはいつになったら配布されるんですか?」
「知り合いのミリタリーショップに注文してあるから・・・・そうだな、一週間ぐらいで全員に行き渡るんじゃないかな?」
「ミリタリーショップって・・・・すっごい庶民的ですね」
「仕方ないだろう。そこにしかコネが無いんだから」
コネっていうか、俺の持ってる野戦服やブーツ、ヘルメット、ナイフといった銃器以外の全ての装備はそこで『自腹で』買ったから、まぁ同じ所でもいいやって気持ちだったんだけどな。
くそ、コイツらは良いよな、ヘルメットやガスマスクにしたってネルフ職員用に購入して使いこなせなくてそのまま倉庫行きになった新品同然のお古なんだから・・・・。
「こんちわ〜、シンジ君いますか?」
今日は満員御礼だな、こんどは誰だ?
視線を入り口の方に向ける。
「おう、霧島じゃないか。報告か?」
「えぇ、そうです。中隊詰め所への備品の搬入、完了しました」
敬礼しながら霧島が答えた。
霧島には感謝しないとな。
俺がここでドンパチやってるあいだ、こいつは中隊副長という役柄、俺にかわって中隊の指揮をこなさなくちゃいけなかったんだしな。
よし、今日はなんかうまいもんでも食わせてやるとするか。
「了解した。それだけか?」
「いえ、それから秋月2尉から『ヴェクトルのアレはどうだった?』とのことです」
あぁ、あれね。
今回の演習でたまたま入荷・・・というか購入した南アフリカのヴェクトル社製 ヴェクター
CR21というブルパップ式――つまりマガジンや排莢口といった重要機関が後ろの方にあるタイプ――のアサルトライフルの実技テストを同時に行ったのだが・・・・。
照準器
「固定式のサイトは見やすくて良かったが、形状的に撃ちにくい。マガジンの装填も慣れがいる。アレを使うならフランスのFA-MASやイギリスのL85の方がマシだ、落第」
曲線的すぎて銃口の位置が把握しにくいのでサイトを覗かないとうまく撃てなかったな、要は使いにくいって事だ。
うちらの中隊の基本装備はほぼ決まったものの、限定された空間内での装備――室内戦やらの特殊な場所での物はまだ決定してないというのが現状だ。
今回の演習はこの特殊装備の候補を選出する為にも行われたんだが・・・・少なくともヴェクターは一回使っただけでもう落第だったな。
「それとスパスはよかったとも伝えておいてくれ」
他にもショットガン――ショットガントラップでも使用したが――イタリアのルイジ・フランキ社製のSPAS15が俺的合格点を得た。
ショットガン弾
これは世間一般の人が連想するショットガンとは異なり、マガジンボックスにショットシェルを込めるアサルトライフルのような方式なので素早く弾を込められる利点が採用の理由だ。
まぁ、使った相手が桐生の分隊だった所為でマガジン交換できなかったし、トラップとしての使い勝手は・・・・・劣に悪かったが、まぁ普通に使う分には問題なかったからな。
「了解しました、確かに伝えます。・・・・で、そろそろ12時なんだけど・・・・ご飯休憩でいいかな?」
「お前って奴は・・・・」
思わず苦笑いがもれた。
こいつは公私がかなりハッキリしている点が凄いと思う。
仕事の要件がある時にはちゃんと『中隊副長』として振る舞うんだが、ひとたび仕事が終わるとすぐさま『地』が出てくる。
いまんとこ中隊内で一番適応してんのがおそらくこいつだ、まぁ俺としてはあんまり堅っ苦しくないから楽で良いんだけどね。
「いいぜ、どうせもうそろそろ飯にしようと思ってたし。霧島、どうだ一緒にメシでも?奢るぜ」
「あ、ほんと?どのくらい食べて良いかな」
欠食児童してんな、ホント。
まぁ、戦自でロクもん食って無かったみたいだから仕方ないかもしれないが、普通の子ならそんなこと恥ずかしがって言わないと思うんだがな。
まぁコイツ曰く、『シンジ君に隠してもたぶん無駄っぽそうだから』だそうだけどな。
「なんでもいくらでもオーケー、お変わり自由だ」
「やぁりぃっ」
「おまえ等もどうだ?」
桐生と伊崎にも振る。
「えっと、いいんですか?」
「おまえ等さえ良ければ」
どうせ、ネルフの食堂は安いしな。
「はい、じゃぁご一緒させていただきますね」
「こちらこそお願いします」
「よし、んじゃ…」
椅子から立ちあがる。
「第六分隊は作業が終わり次第、飯にして良いぞ!大池、お前は俺の装備を持って今から詰め所まで行け!装備は俺の個人部屋の机の上だ、無ければ床の上でいい!それとその他の連中に食事休憩にしろって伝えろ、飯が終わり次第オフィスに集合だ!!」
『了解しましたっ』
向こうの部屋から返答が帰ってきた、幾分嬉しそうだ。「行くぜ、席が塞がっちま・・・・・いや、んなこたぁないか」
苦笑いをかみ殺しながら椅子から立ちあがり、俺は出口へと歩いた。
『新世紀エヴァンゲリオン』は(株)ガイナックスの著作物です。
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